研究の長期的目標
最大の目標は、新物質開発、そして新機能開発である。具体的には、超伝導体、磁性体、光機能材料、イオン伝導体、誘電体などにおいて、固体化学、および固体物理を土台として、その性能について卓越した特徴を有する新物質や界面の実現を目指す。
研究の軸となる考え方が、アトムエンジニアリングである。新物質・新機能開発にあたり、原子レベルで精密に物質構造制御を行うことを常に念頭に置く。さらに、オングストローム空間分解能で電子状態評価をしていく。そして、ミクロとマクロの物性を結ぶ物質設計指針を得て、機能性物質の学理構築を通じて材料科学の新研究領域を切り拓く。
研究のポリシー
- 原子レベルで制御する物質合成。特に薄膜、ヘテロ構造、低次元構造(分子、クラスター、一次元構造)、界面、および表面に着目する。
- 世界最先端の物性評価技術を武器として、物質本来の姿を観る。
- その結果を、物質設計にフィードバックし、新物質合成を行う。
というサイクルに重点を置く(図参照)。
新物質・新構造合成と最先端物性評価技術開発の両面に力を注いでいる。
実験装置に関しては、汎用装置を揃えるのではなく、世界で我々しかできない実験ができるよう、装置開発を常に行っている。
このように、実験システムと物質合成技術をコア競争力とし、材料科学の新分野の開拓を行う。
研究分野
酸化物薄膜やヘテロ構造に加えて、有機分子を含む材料(例:金属有機構造体や分子結晶固体電解質)を対象とし、エレクトロニクス・エネルギー・情報デバイスへの応用を目指している。酸化物薄膜自身や界面、表面における新物性が今でも多数見つかっており、興味深い研究が展開されている。原子・分子スケールで構造を設計・制御することで、新機能を創出する。さらに、データ科学とロボットを融合したデジタルラボを基盤とし、自律的な材料探索を推進している。
具体的な研究項目
A. 機能性薄膜/界面/表面の電子状態評価と新物質開拓 [新規デバイス開発]
- 機能性酸化物や金属有機構造体の薄膜を対象に、原子・分子レベルで制御した配向・界面構造を設計し、新物性の探索と新規デバイス応用を行う。プローブ顕微鏡、透過型電子顕微鏡、放射光、ミュオン・中性子測定、光電子分光、イオンビーム分析(核反応解析)などの先端計測に加えて、第一原理計算や機械学習を用いた計算科学的アプローチを取り入れることで、実験と理論の両面から新機能創出を目指している。
![A. 機能性薄膜/界面/表面の電子状態評価と新物質開拓 [新規デバイス開発]](img/research/img_research_02.png)
B. 電池に関する研究 [エネルギー分野]
- 持続可能な社会の実現には、高効率かつ安全なエネルギーデバイスの開発が不可欠である。全固体電池や燃料電池に代表される次世代デバイスでは、イオン伝導材料の性能がその鍵を握る。 私たちの研究室では、リチウムイオン伝導体、ヒドリド伝導体など多様な材料を対象に、電気化学。固体化学的観点からの学理構築を重視しつつ、薄膜合成・界面設計・結晶構造制御を通じてイオン輸送特性の理解と最適化を進めている。さらに、材料内部や界面での輸送現象を普遍的に捉えるため、理論や数理研究者、先端計測との協働を進め、研究を展開している。これらのアプローチを通じて、エネルギーデバイス設計の新しい指針を提供している。
C. デジタルラボ [研究プロセスの革新]
- モジュール化された実験装置をロボットで連結し、合成から特性評価までを自動化・自律化する実験基盤を構築している。これにより、人間の介入をほとんど必要とせず物質合成が可能となり、新しい時代の実験室が現実のものとなりつつある。さらに、実験やシミュレーションで得られる膨大なデータをデジタル化し、標準化したフォーマットで記録・管理することで、クラウドを介した研究者間・組織間での共有と再利用を可能にしている。こうして集積されたデータを俯瞰的に捉え、活用することで、単なる効率化にとどまらない新しい物質観の創造を目指している。
これまでの研究紹介
Digital Discovery, 4, 1734-1742 (2025).
ACS Appl. Mater. Interfaces, 15, 48 (2023).
APL Mater., 8, 111110 (2020).
Nano Lett., 20, 8200 (2020).
Nano Lett., 15, 1498 (2015).
ACS Nano 5, 7967 (2011).
機能性酸化物やそれらの界面における物性に注目が集まっている。ヘテロ構造を活用すると新たな物性が発現することや、超伝導転移温度が向上するなど、様々な現象が報告されている。
さらに新規物性を探索する、あるいは高品質な薄膜/界面を作製するためには、原子スケールで酸化物薄膜成長過程を明らかにすることが必要である。我々はそれを可能とする実験装置を開発し、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)において実験を行った。その結果、基板最表面の原子が浮かび上がって、アイランド上に析出し、基板・薄膜界面において原子配列がきれいになることを明らかにした。
さらに、原子が周期的に並んだ基板表面を作る手法も報告した。今後、高品質薄膜作りにつながり、酸化物エレクトロニクスのパラダイムシフトが期待できる。
Appl. Phys. Lett. 90, 212106 (2007).
2005年にエピタキシャル薄膜で透明伝導性が発現することを示したが、実用化するためにはガラス上の多結晶薄膜で透明導電性を実現することが必須である。しかし、d電子が電気伝導を担う系では透明伝導性を示す物質はそれまで存在せず、大きなチャレンジであった。
我々はアモルファスをまず堆積し、その後アニールすることによって、ガラス上でも透明導電性を実現するプロセスを確立した。従来の透明導電体はs電子を伝導電子としたものであり、我々の成功により、d電子系透明導電体という材料カテゴリーを創出することに成功した。
この物質は地球上に豊富である上に無害であり、元素戦略の考え方に合致しており、ITO代替材料として多くの研究者が実用化研究に取り組んでいる。
Appl. Phys. Lett. 86, 252101 (2005).
薄膜はパルスレーザーデポジション法により作製した。それまで、ルチル型の二酸化チタンにニオブをドープすると抵抗が下がることが知られていたが、アナターゼ型では、低温で抵抗率が下がり、金属状態になっていることを示した。ルチル型では金属化せず、ニオブドープしても半導体的であるのとは対照的であり、抵抗率も10−4 Wcm台と極めて低くなる。 ここで驚くことは、この高い電気伝導性を示しつつ、可視光で透明性を示すという点である。エピタキシャル薄膜ではあるが、アナターゼ二酸化チタンが透明導電性を示すことを証明した。
Phys. Rev. Lett. 83, 4116-4119 (1999).
具体的には、シリコン表面上にガリウム原子を極微量蒸着し、一次元ポテンシャルに閉じ込められたガリウム原子の挙動をSTMによって調べた。拡散過程でガリウム原子が滞在する確率が高いサイトと低いサイトでは、STMで観察される高さが異なることを見いだした。これを定量的に解析し、ガリウム原子が感じるポテンシャルエネルギーのマッピングを行った。
本研究は、シリコンへのドーパントや欠陥が原子拡散に与える影響を可視化したという点で独創的である。
Phys. Rev. Lett. 82, 4034-4037 (1999).
それら構造の電子状態を詳細に検討した結果、長さを2原子、3原子、4原子と変えていくと、その電子状態に顕著な差が現れることを見いだした。この結果はナノスケールの構造が、原子間が相互作用して、あたかも擬分子のように振る舞うことを示した点で意義深い。











